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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(オ)499号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を仙台高等裁判所に差戻す。

理由

上告代理人鈴木義男、同河野太郎、同仲西広次の上告理由について。

原判決の確定した事実は、本件三筆の山林はもと被上告人佐藤の所有であつたが、同人は昭和二〇年七月一四日その地上立木の所有権を自己に留保し(但し七番地上の雑木を除く)、地盤たる土地のみを訴外篠崎兼吉に売却したところ、右兼吉の相続人篠崎宗義は、昭和二四年二月二日右山林を立木をも含めた一体として上告人に売渡し、同月一四日土地所有権移転登記を完了した。ところが被上告人佐藤は右所有権の留保に際し、留保に関する明認方法を施さなかつたというのである。

右事実に対し原審は、被上告人佐藤の留保により本件立木所有権は篠崎に移転しておらないのであるから、上告人が右立木の無権利者たる篠崎より立木を含めて本件土地を買受けその土地につき所有権取得の登記を経由しても、立木については上告人は権利を取得するに由ないのであるから、被上告人佐藤が立木留保に関しその明認方法を施したと否とにかかわりなく、なお上告人に対し立木所有権を主張し得るものとして、上告人の本訴請求を排斥したのである。

按ずるに、立木は本来土地の一部として一個の土地所有権の内容をなすものであるが、土地の所有権を移転するに当り、特に当事者間の合意によつて立木の所有権を留保した場合は、立木は土地と独立して所有権の目的となるものであるが、留保もまた物権変動の一場合と解すべきであるから、この場合には立木につき立木法による登記をするかまたは該留保を公示するに足る明認方法を講じない以上、第三者は全然立木についての所有権留保の事実を知るに由ないものであるから、右登記または明認方法を施さない限り、立木所有権の留保をもつてその地盤である土地の権利を取得した第三者に対抗し得ないものと解するを相当とする。しかるに原判決は、或る特定の不動産に関し実体上の権利の変動に基かざる単なる登記簿上の所有名義人が該不動産を第三者に譲渡しその登記を経た場合、譲受人たる第三者と真正所有者間における実体法上の効力問題をもつて、本来土地の構成部分たる立木につきその所有権を留保した場合その留保を第三者に対抗するための要件問題とを同一視したものであつて、ひつきよう対抗問題に関する法律の解釈を誤つた違法あるものというべく、論旨は理由があり原判決は破棄を免れない。

よつて民訴四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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